第11話

 

ちょうど水曜日は剣道部の活動があり、三条慧哉の弟、三条勇哉も顔を見せるという。
そこで翌日、クローヴィスに話を通して連れ出した翠羽と共に、絢世は放課後の柔剣道場の入り口で待機していた。
柔剣道場は体育館よりも小さな建物で、冬には絢世達も授業で使うことになる場所である。

「仮にも剣道部の見学で来ているんだろう。中に入ればいいだろうが」
「いや・・・・・・、ちょっと入りづらくって」

杏輔の言葉はもっともだが、大声や打ち合いの音が響く道場内は、絢世にとっては異世界以外の何物でもない。踏み込めない気持ちも察して欲しかった。

一方、翠羽は興味津々な顔で剣道部の練習を覗いている。校内で少しでも目立たずに済むよう、今日の格好は真新しいワイシャツとスラックス。三つ編みにした長い髪は服の中へ入れて隠していた。

彼に習って道場内を伺うと、芳川の話通り、小学生くらいの子供や社会人らしき姿が高校生の中に混じっていた。有名な師範とやらはまだ来ていないようだ。

重そうな面をはずした芳川がこちらに気づき、手ぬぐいをかぶったまま寄ってくる。

「二人とも、中入れば良いのに。・・・・・・おっと、そっちは?」

杏輔と同じことを言う彼に苦笑を返し、翠羽を紹介しようとして、説明に迷う絢世。
代わりに杏輔がため息混じりに口を開いた。

「・・・・・・翠羽という。ヴィルオール先生の知人で留学生。日本語はほとんどわからん」
「へー、よろしくー。俺も英語ほとんどわかんねーの。勘弁してな」

へらっと軽い笑顔を浮かべた芳川に、翠羽はやはり分かっていない顔で笑い返していた。

「んー、勇哉さん、ちょっと遅いな。いつもならもう来る頃なんだけど」

壁の時計に目をやる芳川。そろそろ6時になろうかという頃で、普段の絢世なら夕食の準備に取りかかる時間である。今日は、あらかじめ遅くなると断って家を出てきているので大丈夫だが。

その時ふと、体育館に続く渡り廊下の窓にちらりと金色の影が映った。薄暗くなってきた周囲の中でひときわ目立つその色は、廊下の途中で折れて、すぐ前の通路に現れる。

濃紺のジャージに、シンプルな銀のネックレスがきらりと光る。
竹刀の袋を背負った彼は、テレビの中の三条慧哉とそっくり同じ顔をしていた。弟は弟でも、双子の、という形容詞がつくらしい。
絢世の横で、翠羽も息を呑む。

「勇哉さん、お疲れさまです」
「よう、芳川」

気さくに手を挙げて芳川に応え、これからこちらへと目を向ける勇哉。その色も兄と同じ柔らかなブラウンだが、体育会系らしく随分と精悍な印象だ。

「・・・・・・こっちは? 見学か?」

問いかける言葉も、ドラマで聞いた声と同じ。
やたらとどぎまぎしつつ、絢世は名乗る。

「あ、えっと、あたし芳川君の同級生で、萩野絢世っていいます」
「・・・・・・絢、緊張しすぎだ。こいつは三条慧哉本人じゃないんだぞ」
「でもそっくりなんだもん。キョウちゃんは知ってたんでしょ。教えてくれれば良かったのに」

こそこそ言い合う絢世と杏輔。その間に芳川がいきさつを簡単に説明してくれていた。

「同級生の萩野と、進学科の神崎です。剣道部じゃなくて勇哉さんの見学かな」
「は?」
「あ、違うんです。この翠羽君が、慧哉さんに用事があって・・・・・・」
「・・・・・・慧哉に?」

勇哉の目が鋭く細められる。随分気を遣っているのだという、芳川の忠告が頭をよぎった時にはもう遅かった。

「言っとくが、慧哉に会わせろってんならお断りだぜ」

ぐっとトーンを下げた勇哉の声は、慧哉演じる名探偵が犯人を糾弾するときの声音だった。

「で、ですよね・・・・・・。あの、でも事情があって。翠羽君と慧哉さん、お友達かもしれないんです。翠羽君は慧哉さんのこと、朱玉って呼ぶんですけど・・・・・・」
「・・・・・・言ってる意味がわからねぇよ」
「・・・・・・ですよね」

実際、絢世にもよく分かっていないのだから当然だ。何と言って説明すれば伝わるのか、見当もつかない。突然翠羽に飛びつかれても、あっさりと納得したクローヴィスの反応の方がおかしかったのだ。

後ろの杏輔がため息をつくのが聞こえた。