第32話

 

誰かの話している声で目が覚めた。

「やっぱり、白羚のこともリェールは覚えてないみたいだ」
「それはそうだ。そういう風にしたんだからよ」

片方はクローヴィスの知らないもので、低い声音はどこか投げやりに聞こえる。
そしてもう片方、ため息を吐いたのは翠羽の声だった。

「どうした? お前にとっては好都合なはずだろ」
「そう……、だね。これ以上、リェールに大切な人を失って欲しくない。でも、このままでいいのかとも思うんだ。……影月、他に方法はないのかな」
「……気持ちはわかるが、そろそろ時間切れだ。俺たちもギリギリまでは粘ってみるが、お前も腹をくくっておけ」
「……、わかった」

頭の後ろで交わされているのは、自分にも関係のある内容らしい。また、知らない声の持ち主は誰なのか。翠羽の言葉が理解できるのは何故なのだろう。
疑問は数尽きないが、身を起こして問いただすのは憚られ、クローヴィスは結局黙ったまま、再び眠りについた。

翌朝、翠羽の姿は部屋から消えていた。