第33話

 

月曜日の朝一番、絢世は昇降口でクローヴィスに呼び止められた。

「……翠羽くんが、いなくなった?」
「ああ。三条勇哉にも連絡はしてみたが、心当たりはないそうだ」
「そうですか……」

翠羽と初めて出会った時のことを思い出す。中庭の東屋に、突然謎の光とともに現れた彼。その時と同様に、今度は突然消えてしまったとでもいうのだろうか。

働かない頭で考え込む絢世に、クローヴィスが続ける。

「何か関係があるのかもしれないが、実は昨晩……。萩野、寝不足か?」

こらえきれなくなったあくびをかみ殺したところで、指摘されてしまった。

「……あ、はい。すみません。ちょっと眠れなくて……」
「何か悩み事でもあるのか」
「…………」

口を開きかけた絢世は、しかし、思い直して首を横に振った。

友達じゃ、もう満足できない。
そう言った杏輔の真剣な眼差しは、今も脳裏に焼き付いて離れない。目を瞑るたびに彼の顔が浮かんでくるものだから、絢世はそれ以来満足に眠ることもできなかった。

こんな人通りの多い場所で相談する話ではない。

「ありがとうございます。大丈夫です」
「……そうか」
「はい。それより、翠羽くんのことですけど……」

その時、話題を戻そうとした絢世の視界に、登校してきた杏輔の姿が映った。
下駄箱から顔を上げた彼と目が合う。

「……ああ、ちょうど良かった。神崎、少しいいか」

何も知らないクローヴィスが杏輔を手招きする。

「あの、先生、あたし姫ちゃんと約束してるので、もう行きますね」
「萩野?」
「おい、絢、待て」

不思議そうな顔の副担任の脇をすり抜け、絢世はまたも杏輔から逃げ出した。
今はまだ、顔を合わせたくなかった。彼の呼び止めを振り払うように、渡り廊下を駆け抜ける。

息を切らせて、足を止めたのは翠羽と初めて出会った中庭の東屋だった。
走ったせいか、他の理由でか、胸の動悸がおさまらない。絢世はへたり込むように、誰もいない東屋のベンチに腰を落とした。

杏輔とはずっと友達だと思っていたし、これからもそうなのだと信じていた。手駒だの何だのと卑下するような呼び方をするのは、彼なりの照れ隠しだと理解していた。
それ以上を望まれるなんて、思ってもみなかった。

そんな状態で、ただ、どうしようという困惑でいっぱいになり、自分がどうしたいのか、どう答えるべきかという解決の糸口すら、絢世にはまだ見えていないのだった。

視界が滲む。なぜ自分がこんなに思い詰めているのかすらもわからない。一人嗚咽をこらえながら、溢れ始めた涙を手の甲で拭う。

ハンカチを取り出そうとして、ポケットに入れた手に何かが触れた。引き出して見ると、以前ここで拾った鈴だった。あの時は翠羽の騒動ですっかり忘れ去ってしまっていたが、何度となく落とし物として届け出ようと思いつつも、その機会を逸してしまっていた。

鈴を手のひらで転がしていると、携帯の着信音が鳴った。液晶に浮かぶ相手は非通知である。
代わりに出てやると言ってくれた杏輔の姿が蘇る。こんな状態で、再び彼と仲良く話す関係に戻れるかどうか、今の絢世には確証がなかった。

震える指で、通話のボタンを押す。

「……、もしもし?」

その瞬間、絢世の意識はふっつりと途絶えた。