第9話

 

「信じらんない、悪いけど」

むすっとした顔で即答するかえで。

「えー、ホントのことだよ、姫ちゃん。翠羽君のことも、ヴィル先生のことも」
「だって、フツーに考えてあり得ないでしょ、そんなの。何さ、言葉が通じないって。おまけに三条慧哉が友達って。絢ちゃん、騙されてるよ」
「翠羽君、そんな嘘つく子じゃないよ。話してみれば分かるけど」
「だから、話せないんでしょ?」
「あきらめろ、絢。会長がいないから気が立っているんだろう。何を言っても無駄だ」

よせばいいのにわざわざ煽るような口を利くから、仕返しとして読んでいた本を乱暴にひったくられる杏輔だった。

学生食堂のダイニングスペースは日が燦々と差し込むサンルーム風になっている。この時期になると少々暑いくらいだが、徐々に増えてきた生徒たちによって、席の大半は埋まっていた。

そこに集まったいつもの顔触れに、風璃の姿はない。急遽生徒会の打ち合わせが入ったとのことで、今日の昼食は一緒にできなかった。そのため、人目を引きすぎる彼がいない時くらいは食堂を使おうという話になったのだった。

持参派の杏輔はいつも通りの仏頂面、デザート付きのランチメニューを選んだ絢世はご機嫌で、同じ物を食べながらもかえでは風璃不在のために荒んでいた。

「返せ、黒姫。どうせ貴様なんかには理解できんだろうが」
「何これ、初めてのドイツ語? 馬鹿じゃないの、こんなのテストに出ないよ」

昨日の赤っ恥が相当悔しかったらしい。
渋面になった杏輔ではなく、かえではその本を隣に座る絢世の膝へぽいと乗せる。丁寧にブックカバーをかけ直す絢世のポケットで、携帯電話が振動した。

「あ、ごめん電話出るね」

と、取り出した携帯電話の画面には、番号非通知の文字が浮かんでいる。

「・・・・・・非通知か?」
「誰だろう・・・・・・、どうしよう、キョウちゃん」

絢世の携帯番号を知っているのは家族と友人、それに先日交換したクローヴィスくらいだ。そのうち、わざわざ非通知で掛けてくるような相手に心当たりはない。

不安に感じ、手のひらで持て余している間に、振動はふつりと収まった。

「切れちゃった・・・・・・」
「いたずらかなぁ。絢ちゃん、こんなこと前にもあった?」
「ううん、初めて」
「今度かかってきたら僕に貸せ。聞いてやる」
「うん・・・・・・。ありがとう」

心配してくれる二人に笑顔を返し、絢世は携帯電話をしまった。