第7話

 

あてもなく来た道を戻りながら、風璃は頭の中のもやもやと格闘していた。
怒鳴ってしまったのは自分が悪い。しかし、調子に乗っているだのなんだのというのは言い過ぎだろうと思う。それ以上に、自分たちの事情を知らない立場から、向こうの物差しで勝手に理屈を押し付けられたのが気に入らなかった。

そんな事を反芻しつつ坂を下っていたので、前方から歩いてくる背の高い影に、風璃は気づかなかった。

「ちょっと君、いいかい?」

渋い中年男性の声に顔を上げると、目の前に立っていたのは制服を纏った警察官だった。にこやかな笑顔を浮かべて、胸ポケットから1枚の写真を取り出してみせる。
やけに表情の無いかえでが写っていた。

「隣の戸牧市で、先日から行方知れずになっている女の子がいるんだ。中学3年生で、名前は黒姫かえで。心当たりはないかな?」
「……あー、すみません。この辺りでは見かけてないです」

どきどきと高鳴る心臓に気づかれないよう、平静を装って風璃は答えた。そんなこちらに気付いているのかいないのか、一部の隙もない笑顔からは読み取ることができない。

「そうか。もし見かけたら家に帰るよう言ってくれるかい。お父さんとお母さんが心配していると伝えてくれ」

それじゃ、と言って、写真をしまった彼は来た道を戻って行く。嫌な汗をかいた。かえでが捜索されているかもしれないという可能性を、風璃はこれまで全く考慮していなかった。

広い背中を見送っていると、その警察官とすれ違うようにして、長い前髪の青年が軽快に坂道を上ってくる。背負ったギターが目立つ彼は、警官には目もくれずに、風璃に向かって大きく手を振った。

「風君、ちょうど良かった! 学校帰り?」
「唯真さん。天翔なら留守ですよ」
「マジかー。でも俺、今日は柚子さん目当てだから」

大袈裟に凹んでみせたかと思うと、次の瞬間には満面の笑顔を浮かべる唯真。風璃よりも少し年上の彼だが、相変わらず落ち着きがない。

「そういえば陽さんから聞いたけど、風君、女の子匿ってるんだって?」
「声が大きい!」

慌てて風璃は唯真の口を塞ぐ。目をやった道の先には、すでに制服の姿は無くなっていた。

「俺、さっきの警官にそれで声かけられて、誤魔化したばっかりなんですよ」
「へ? 警官の人なんていた?」

きょとんとする唯真。

「いや、唯真さんすれ違ってたじゃないすか」
「俺は誰ともすれ違ってないけど? っていうか警官さんレーダーは優秀だから、俺。いたらダッシュで逃げるよ」
「それは……」

そうだけど、という言葉を飲み込む風璃。そこそこ人気のストリートミュージシャンである唯真は、人が集まりすぎて注意されることも多いらしく、警察とはいわば犬猿の中である。だから、その言葉には信憑性があるのだが、それならさきほど自分が話した相手は何だったのか。

「風君? 狐につままれたみたいな顔してるよ?」
「洒落にならないんでやめてください……」