第22話

 

「なるほど、こういう運びになったか」

電源を切った6号を工房へ運び終えた後。姿の見えない客人たちを探しに、奥の部屋へ踏み込んだアリの目に映ったのは、中身のないガラスケースと隅で呑気に毛づくろいをする黒猫だった。
眠たげな赤い目にどこか諦観の色を浮かべて、宝物の消えたケースへ歩み寄る。途中、じゃり、と妙な感覚に足元を確認すると、気に入っていたコーヒーカップが無残に割れていた。

はぁ、とため息をつき、その位置からおもむろにガラスケースへ手を差し伸べるアリ。当然届くわけもない。
しかし、突然ガラスの表面にひび割れが走り、次の瞬間には人ひとりを閉じ込めていた大きなケースが音もなく砕け散る。猫がわずかにそちらを見たが、すぐ興味を無くしたように毛づくろいへ戻った。

「これも、聖母のお導きというやつかもしれないね、キース」

語りかける言葉に答える声はない。
救世神も聖母も信じていないアリだが、今だけは瞳を閉じて、敬虔な僧侶のように祈る。

「どうかこの機会が、今度こそあの子にとって幸せなものでありますように……」