第37話

 

昼食の後、ジェイトたちは商店で、南西周縁都市ハルミアを徒歩で目指すための準備を整えた。出発は明日にすることにして、宿屋の前で、結局ずっと付き合わせてしまったカリファを振り返る。

「ありがとね、カリファ。助かったわ」
「ありがとうございました」
「ケイケイにもよろしくな」

それぞれが礼を告げると、カリファは意外そうな顔を見せた。

「聞いていなかったのか? もうしばらく付き合うと言っただろう」
「は?」
「なかなか下界も興味深いのでな、あちこち見てみたくなった」

しれっと言う彼に、リュシアンが詰め寄る。

「いや、見てみたくなった、じゃないわよ。あなたそんなこと一言も言わなかったじゃないの」
「だから、言っただろうと」
「違うわよ、ケイケイよ! ただでさえこんなに帰りが遅くなってるのに、このまま戻らないなんて心配させるに決まってるじゃないの!」
「それについては問題ない。雑貨店の主人に言伝を頼んでおいた」
「だから良いって訳じゃないでしょ!」
「リ、リュシアンさん、落ち着いて」
「それだけじゃないわよ、あたし、忘れてないんだからね」

とりなそうとしたティセリーを後ろから抱きしめ、リュシアンはさらに言い募る。

「あなたみたいなけだものと一緒に旅なんてできないわ」
「失礼だな。私とて時と場所と相手くらいは選ぶのだぞ」
「前科持ちが何言ってるのよ」
「そうは言うがな……、それでは、ジェイトはどうなんだ」

ため息混じりのカリファに突然話を向けられ、事態を静観していたジェイトは変な声を上げる。

「おれ?」
「ああ、女性二人と旅をしていて、まさか何も感じていない訳があるまい。今は黙っているだけでも、そのうち爆発するかもしれんぞ。その可能性は考えないのか?」
「……ジェイト、どうなの」

どうなの、と聞かれても答えようがない。ため息をついたジェイトは、にやにや笑うカリファを、覚えてろよ、と睨みつける。

「……来てもらっても良いんじゃないか。これからおれもリュシアンも知らない土地を歩く訳だし、少しでも詳しい人がいるのはありがたいだろ」
「それはそうだけど……」
「それに、カリファの弓は、魔物と戦うにあたってかなり心強いし」

尚も渋い顔のリュシアンへ、抱きしめられたままのティセリーも励ますように続ける。

「そうですよ、リュシアンさん」
「野営の時は、おれかリュシアンかカリファのうち二人が起きてるようにすればいい。そうすれば変な真似はできないんじゃないか?」
「……、わかったわ。二人がそこまで言うなら」

苦いものを飲み下すような顔で彼女は頷き、ティセリーを解放すると、つかつかとカリファに歩み寄って彼を見下ろす。そして、そこで初めて気づいたように言った。

「あら、あなた意外と小さいのね」

ヒールを履いたリュシアンはジェイトよりも背が高いのだが、その彼女から見てカリファが思ったより小柄だったらしい。同じくらいかと認識していたジェイトも、改めて意識してみると、確かに彼の目線は自分より低い位置にある。

カリファの顔が一瞬で不機嫌になる。そして、それを見逃すリュシアンではない。

「あ、ごめんなさい、気にしてたのね。余談だけど、ディロウの成人女性1000人を対象にしたアンケートによると、パートナーの身長はせめて17セスは欲しいっていうのが本音みたいよ?」
「ふん、ディロウではどうだか知らんが、こちらでは男の魅力は身長だけで測るものではないのでな」
「もちろんそうだけど、見た目だって大事だわ。ねぇ、ティセリー?」
「え、わたしは……」

巻き込まれたティセリーが困惑顔を見せたところで、ジェイトが不毛な言い争いをやめさせた。

「そこまでにしようぜ。どうする、カリファ。こんな感じだけど、やっぱやめとくか?」
「いいや、構わん。では、よろしく頼む」

念のため確認したが、不要だったようだ。しかめっ面を引っ込めて笑みを浮かべるカリファに、ティセリーとリュシアンも笑顔を返す。

「よろしくお願いします」
「ええ、お願いね」
「早速だが、私は別の宿を取る」
「何かあったか?」

宿屋のドアを引き掛けていたジェイトが振り返ると、アザミ色の瞳が輝きを増した。

「当然、来たからにはその町の女たちを知らねばなるまい。ジェイト、お前も来るか?」
「行かねぇよ……」
「……やっぱり置いていくべきかしら」

リュシアンが呆れたように呟いた。