第8話

 

「……で、ねーさんはここで何してるわけ?」
「ひゃあっ! び、びっくりしたぁ。もう、いきなり声かけないでよ、ヨシュア」

飛び上がった心臓を落ち着かせようと胸を押さえながら、ユナは弟に文句を言う。こそこそしていたのは自分の方なのだが、そのあたりは気にしない。
昨夜のことがあって気まずく、直接ジェイトを見送るのは断念したのだが、我慢できずに結局こうして広場の近くに隠れていたのだった。

「いや、びっくりしたのはこっちだし。なんで伝言頼んだ本人がその場にいんだよ。しかもそんなカッコで」

呆れた口調のヨシュア。それもそのはずで、今のユナの姿は寝巻きにカーディガンに寝癖もそのままという、とても人には見せられないものなのだった。
指摘された途端に恥ずかしくなってきて。つい自分の髪を何度も撫で付けてしまう。

「だ、だって気になっちゃったんだもん。それに、ヨシュアだって同じでしょ。ジェイト驚いてたよ」
「ねーさんほど酷くねぇよ、オレ。っていうかさぁ、詳しく聞こうとは思わねぇけど、あれ、いいわけ? 女連れですけど」
「え、や、ノクトレスまで送っていくだけだし、それが女の子でも男の子でも……。っていうか、なんでヨシュアがそんなこと気にするの! あたし別に全然気にしてないしっ!」

勢いづいて弁解するユナを、眠そうな半眼でヨシュアは見つめ、やがてゆっくりとため息をついた。

「あー、そー。悪かった悪かった」
「ぜ、全然心こもってないよね」
「はいはい、すみませんでした」

依然として軽薄な調子のヨシュアに頬を膨らませ、ユナは彼から顔を背けた。
視界に飛び込んでくる、広場の光景。ジェイトたちはこちらに背を向け、そろそろ出発しようとしているようである。

ヨシュアにはああ言ったのだが、実際のユナはいてもたってもいられないほど動揺していた。走って行って引き止めたい衝動にかられ、身の内がざわざわと落ち着かない。

会えないのはたかだか1週間なのだ。ティセリーはノクトレスに着いたらすぐに船で極北へと向かうのだろうし、残りの期間はウィラや領主たちと過ごして、来週には彼は帰ってくる。もしかしたら、お土産なんかも買ってきてくれるかもしれない。
そう、自分に言い聞かせるように、ユナは大きく深呼吸をして立ち上がる。

「ねーさん、オレ、人が起きてくる前に帰りてぇんだけど」
「うん、わかった。もう行くから」

広場を出て行く背中はだいぶ小さくなっていた。

「……行ってらっしゃい」