第1話

 

朝から弱々しく降り続けていた雪が、夕方になって激しさを増した。このままいけば、明日は一面銀世界に違いない。
と、煌々と明るい教室の窓からほの暗い校庭を眺めつつ、吉口秀実は現実から目も耳も逸らしていた。

「……ちょっと秀実、ちゃんと聞いてるの? あなたのこと話してるのよ」
「……聞いてるよ……」

視線を机に戻して、ちっ、と舌打ちすると、隣に座る母がキレた。

「な、なんですその態度は! 少しは真面目に聞きなさい! お母さん、せっかく仕事急いで終わらせて来てるし、先生だってお暇じゃないのよ!」
「まあまあ、お母さん。秀実君も、日頃の受験勉強でストレスが溜まってるんですよ」

やんわりと宥めにかかる、グレイのスーツが似合いすぎる眼鏡の教師。褒めているわけではない。
いかにもPTAなブランド服をまとった母は、その対応が気に入らないらしく、今度は彼に向って語気を荒げる。
そんな様子を秀実は、テレビか何かでも見るように、冷めた瞳で傍観していた。

中学二年生、二月二十二日。
ウルトラ猫の日と秀実が勝手に名付けた今日の、残念ながら二時ではなく、母の都合で午後五時半。
テストと並ぶ学生の通過儀礼、三者懇談だった。
はずが、早々とした学生本人の試合放棄のために、いまや教師対教育ママという二者懇談になり果てている。

担任教師は、個性のない銀縁眼鏡のブリッジを押し上げ、秀実の中間テストの成績表を分厚いファイルから取り出してみせる。

「秀実くんの今の成績からいうと、このままいけば旭日北高校も狙えますし、私立ですが、美浜山の進学コースにも充分対応できると思いますよ。いやー、がんばってるなぁ、吉口」
「そんな地元の学校なんかにこの子を進ませる気はありません! 秀実は、都内の鳳学院に進学するんです。そうよね、秀実?」
「しかしですねお母さん。そうすると、通学するのに電車で一時間ばかりかかるわけですよ? そんなのは大変でしょうに。な、吉口?」

……雪積もったら、明日サッカーできねぇな……。

「……ん、何か言った?」

再び意識を明後日の方向に向けていた秀実が、ふと現実に目を戻すと、真っ赤な顔をした母が、大きく息を吸い込んで、

「秀実ぃいぃぃいッ!」

その声は遠く、別棟の職員室まで響いたとか、響かなかったとか。